初めて企業の文章研修で講師をしたときのこと

初めての文章研修開催地は鹿児島だった。
僕が普段活動しているのは関西圏なのでずいぶんと遠い。
さすがに初回でもあるので研修を企画運営している会社のお目付役の方と現地で落ち合い、実際の研修を確認してもらう。
しかも受講者数は40人を超えるという。
いつもそれぐらい多いんですかね?と聞くと、
この人数はかなり珍しいという。通常は10人前後、多くても20人ほどだそうだ。
「慣れてる先生でもこの人数は大変なんで、パスしてもらってもいいですよ?」
「やります!大丈夫です!」
今までならちょっと逡巡させてもらうところだが、なぜか即決した。

前日に伊丹空港から飛行機に乗った。
飛行機に乗るのは大学で帰省に使った時以来だから、およそ20年ぶりだった。
重力を身体に感じながら空に向かって飛び立つ感覚を、新たな世界に向かう今の自分に重ね合わせた。
それも全ては自分が望んで、自分がイメージし、自分が引き寄せたことだ。
僕はずっと窓の外の雲や眼下の景色を眺めて、この20年を思い返していた。

鹿児島空港からバスに乗り、目的地近辺にとったホテルにチェックイン。
アパホテルの社長の自叙伝マンガを読んでから近辺の散策に出た。
全く知らない土地をソワソワしながら歩き、異邦人的な感覚を噛み締めていた。ぶらぶら歩いていると普段よく使う見慣れたチェーン系スーパーマーケットの看板が目に入った。遠く離れたアウェイの土地で突如見つけた「慣れ要素」に安堵し飛び込んだ。
翌日の朝食や研修中に飲む水、夜に飲むビールとつまみを買い、どこかで晩御飯を食べようと店を探した。・・・が、ない。Googleマップに目をやるとコンビニすら遠い。
すっかり日の落ちた暗闇をぶらぶら歩いているとラーメン屋に出くわした。ああ、ラーメンを食べよう。小ぢんまりした店の中で、少し辛くてコクのあるラーメンをすすった。とても美味しかった。

街灯のない本気で真っ暗な夜道を歩きホテルに戻り、ビールを飲みながら明日の最終チェックとシミュレーションを十分にして寝たが、やはり寝付けなかった。

朝、運営会社のお目付役とロビーで落ち合い、研修先の企業へ向かった。
大きな会議室には、自分より若い方もいれば、間違いなく役職の付いている年配の方もいる。そんな人たちが自分の話を真剣に聞いて、メモをとって質問をしてくれる。自分の文章の書き方や考え方が人の役に立とうとしている。それがとても嬉しかった。

大勢の人前で話すことには慣れていたが、ずいぶん久しぶりだったので、感覚を取り戻すのに少し時間が掛かった。それでも感覚をつかめばこっちのもので、受講者の方々の状況を把握しながらレジュメに沿って伝えていった。実際のワークでは皆さんのデスク周辺をウロウロしながら、悩んでいる人のケアなどをしてまわった。

自分の研修で意識していたことは、「楽しんで理解してもらうこと」の一点。文章は難しいと思われたらダメ。そのために思考レベルからハードルを下げて解説をして理解させていく。だから自分が楽しそうに喋り、伝えるようにした。

無事に終了した後、鹿児島空港でビールを飲みながら「とても良かった」と言ってもらえた。最初は誰もが早口になって表情も硬く恐ろしげな雰囲気になってしまうらしい。「クリエイティブなスキル」に「レクチャーのスキル」を伴わせている人は決して多くないようだ。

本当にありがたいと思った。自分の新しい側面を開くチャンスをもらえたこと、自分の初めての研修講師業にいい評価をくれた受講生の方々や同伴してくれたお目付役のスタッフさん、今の自分を構成する要素を与えてくれた全ての人に。

さぁ、これから全国の文章で困っている人に自分のスキルを伝えにいこう。

そんなことを考えながら、帰りの機内から眼下に広がる美しい夜景をずっと見ていた。

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